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眠れない患者

よく外来をしていると、眠れない患者に遭遇する。俗に言う不眠症である。

眠れない原因は様々だけれども、多くの場合は睡眠薬を処方することになる。その時の私の頭の中を書いておく。

 

まず、真っ新な不眠症患者が来た場合、ベンゾジアゼピン系を出すことになる。ベンゾジアゼピン系とは、催眠・抗不安・筋弛緩・抗痙攣の4つの作用を持つ薬物で、その中でも催眠作用の強いものが一般的な睡眠薬と呼ばれている。ちなみに抗不安作用が強いベンゾジアゼピン系が抗不安薬だ。筋弛緩・抗痙攣は精神科外来ではまず使わない。

睡眠薬の種類は山ほどあるけれど、私が気にするのは作用時間。基本的に作用時間は短いものを処方する。中には「30時間効きます」とかいう長時間型の睡眠薬もあるが、そんなに寝てどうするのだと私は思う。

マイスリーだったりルネスタだったりレンドルミンだったり、正直どれでもいい。出すほうからすると同じようなものだ。ただしハルシオンデパスは絶対に出さない。依存と悪用が電灯となって、後述する「偽の不眠症患者」がハエの如く集ってくるからだ。一度出したら最後、増やしてほしい患者が群がってくる。「薬増やして」「ダメです」論争は外来の3大無駄な時間の一つだと私は思っている。

睡眠薬は大抵、一種類出せば効きましたという人が多い。軽い不眠症はどれでも効くのだ。一方、効かなかった人に対しては、もう一種類別の薬に変えてみる。これまたどれでもいい。どうせ効果はほとんど同じなのだから。そして2種類試した後、どっちが良かった?と聞いてみる。どちらかを選ぶようならば、良かったほうだけにして、量を増やしてみたり、頓服にしてみたり、誤魔化しながら過ごしていくことになる。それでも納得がいかないときは、2種類までは併用する。3種類併用する医者はヤブ医者だ(3種類出すと保険点数がひかれるようになったので、ヤブ医者すら3種類は出さなくなって来た)

 

偽の不眠症患者:睡眠薬は依存性があり、悪事に使用したりもできるためそこそこニーズがあるらしい。嘘をついてもらいに来る人が時々いる。私たち精神科医は眠れない人を山ほど見ているので、なんとなく嘘をついている人は分かることが多い。紹介状もないのに薬の種類を指定してくる人なんて一発で要注意人物に入る。一睡も出来ないと言う割には元気な人も怪しい。逆にビックリするぐらい辛そうにしてるのに睡眠薬の話ばかりでバレバレな人もいる。偽の不眠症患者は大体数回で来なくなる。ほかにもっと出してくれる医者が見つかったのかな?

 

さて、一般的な睡眠薬で眠れないときにどうするか。ベンゾジアゼピン以外を試すことになる。

睡眠薬で言うならばロゼレム、あと最近出たベルソムラ。この二つはベンゾジアゼピン系ではない睡眠薬であるため試す価値あり。ただしロゼレムはあまり効かない。

それでもダメなら、次は抗うつ薬を使うことになる。正確には抗うつ薬の中で眠気が強いものだ。レスリンテトラミドリフレックスなどがそれにあたる。特にレスリンは低用量では抗うつ作用がないので使いやすい。不必要な抗うつ作用は出したくないので、テトラミドリフレックスを使うのは苦肉の策だ。でもどうしても眠れないなら使うことがある。

 

それでもダメなときは、精神科医最後の砦、抗精神病薬。この中でも眠気が強いものを使うことになる。私がよく使うのはコントミンセロクエルの2つ。ただし、抗精神病作用ではなくただの催眠のために使うので、大量には使えない。適当に副作用が出る前の量で踏みとどまる。

 

それでも眠れない人がいる。本当に眠れないの?嘘でしょ?と思うが、嘘つくなと言うわけにもいかないので、そういう人は眠るのを諦めてもらう。

眠らなくても、楽しく過ごす。これを目指し始めると表情が明るくなる人がいる。この切り替えが出来る人たちは、とても賢い人たちだと私は思う。

困るのは、眠ることを諦めきれない人。効きもしない薬の調整を続けて、副作用に苦しむ事になる。数は少ないが、こういう患者が来る日は少し気分が重かったりする。